韋駄天 役割/仏像/由来/ご利益/寺院など詳しく解説

コラム

韋駄天って、どんな仏様?

韋駄天とは

韋駄天は大乗仏教で信奉される天部に属する護法善神です。サンスクリット語ではスカンダ(Skanda)と呼び、塞建陀天、私建陀天、建陀天、建駄天と音写されます。

しかし『金光明経』の鬼神品中で「健駄天」が「違駄天」と誤写され、さらに唐代の高僧で南山律宗の開祖・道宣律師(596~667)の前に権現した韋琨将軍(いこんしょうぐん)と混同が起こり、「韋駄天」と呼ばれるようになりました(後述)。

サンスクリット語のスカンダは本来「種」「跳ぶ」「戦う」「曇り」と多様な意味を持ちます。また韋駄天はサンスクリット語でカールッティケーヤ(音写で迦絺吉夜、意味は「六つの顔」)、クマーラ(音写で鳩摩羅、意味は「童子」)、スブラフマ(意味は「善梵」)という異名もあります。

仏説では、韋駄天は釈迦が入滅し荼毘(だび)※1に付した時に、帝釈天の傍らにいた捷疾鬼(しょうしつき、捷疾は「迅速、足が速い」という意味)が仏舎利※2の歯を盗み去ったため、韋駄天が猛追して見事仏舎利を取り戻したことから仏教の守護神となったとしています。

そのため中国では四天王と共に仏教の守護神として寺院に安置されます。多くの寺院で弥勒菩薩の化身であう布袋像の裏面に韋駄天が鎮座し、寺院を背にして守護しています。

また韋駄天は曼荼羅では護世二十天の一柱として描かれます。さらに四天王配下三十二武将の頭領とされ、増長天が直属の上司です。

※1 火葬のこと

※2 釈迦の遺骨のこと

韋駄天の仏像の見分け方

韋駄天の仏像は唐風の革甲冑を着た偉丈夫の姿で、顔は児童のように若々しく表現されます。これは韋駄天が赤子のように純粋な心を失っていないことを意味すると言われています。

また武器として巨大な金剛杵を持ち、手を合掌して両肘に金剛所を置くか、金剛杵を片手に持ち股の間に突き立てています。

中国大理市崇聖寺の韋駄天像

 

韋駄天の由来

韋駄天のサンスクリット語であるスカンダは、ヒンドゥー教の三大神の一柱シヴァ神と女神パールヴァティーの間に生まれた息子の名が由来です。

ちなみに兄は聖天(歓喜天)のガネーシャです。スカンダは予言で悪魔ターカラを倒せる唯一の神として生まれた青年の軍神で、六面十二臂で手に槍を持ち孔雀に乗る姿で表現されます。

もっともスカンダにはより古い伝承が存在し、古代インドの聖典『マハーラバータ』では火神・アグニの精子から誕生したとされ、誕生後4日目で他の神を凌ぐ武力を得たとされています。

ヒンドゥー教の神話では仏教で帝釈天とされるインドラと敵対関係にあり、その強さでインドラを圧倒します。最終的にインドラは軍神を統べる最高司令官の地位をスカンダに譲り渡したと言われています。またスカンダは普段から戦闘以外のことを考えず、妻以外の女性を寄せ付けないと言われています。

孔雀に乗るスカンダ

スカンダ信仰は南インドのタミール地方で信仰されていた山の神で少年神のムルガンが原型とされ、生後6日で悪魔を亡ぼす力を得て孔雀に乗る話が共通しています。やがてヒンドゥー教のシヴァ神信仰と習合し、北インドでも信仰されるようになったと考えられます。

韋駄天の成立

韋駄天誕生の話は中インド出身の翻訳僧・曇無讖(どんむせん、385~433)が漢訳した『悲華経』の中で紹介されています。この経典では軍神韋駄天の姿はほぼ描かれず、菩薩になるための修行をし仏法守護に尽力する姿が描かれます。

また曇無讖が翻訳した『金明光経』の中にも韋駄天の名があるので、初期大乗仏教成立の比較的早い段階で仏教に取り込まれたと考えられます。

現代に伝わる韋駄天像は唐代の高僧で南山律宗の開祖・道宣が記した『律相咸通伝(りつそうかんつうでん)』にあり、道宣が天と会話していた際に南天王(増長天)の部下の韋将軍が仏教の守護者として現れたと述べられています。

また668年に道宣の弟子・道世が著した仏典類書『法苑珠林(ほうえんすりん)』では韋琨将軍として紹介されています。頭文字に同じ韋駄天と同じ「韋」が用いられていたため韋駄天と韋将軍の混同が起こり、現代日本にも伝わる武将形の韋駄天像が成立します。

中国では宋代に禅宗が流行すると、仏教の守護者として韋駄天像を寺院に安置しました。これにより庶民の間でも韋駄天が信仰されるようになります。

韋駄天と日本

韋駄天について記された『金光明経』は日本に仏教が伝来した当初から知られていました。しかし、この経典では梵天や四天王が重視され、四天王の部下の韋駄天はさほど重視されませんでした。

鎌倉時代以降、中国に留学する僧侶が増えると韋駄天が中国の仏寺に祀られているのを目のあたりにします。そのため日本では禅宗を中心に、寺の門や厨房の護法神として武将姿の韋駄天が祀られました。

また捷疾鬼から仏舎利を取り戻した説話から韋駄天は盗難除けの神となり、さらに足が速い人の代名詞として「韋駄天」が用いられています。

韋駄天のご利益

韋駄天は盗難・火難除けなど様々な障害や邪鬼を取り除くとされます。

韋駄天の真言

オン 韋駄帝イダテイ 多摩訶疊多タモコテイタ 莎訶ソワカ

韋駄天が安置されている寺院

京都府 萬福寺 木造韋駄天立像

岐阜県 乙津寺 木造韋駄天立像(国重要文化財)

京都府 泉涌寺 木造韋駄天立像(国重要文化財)

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