観世音菩薩って、どんな仏様?
観世音菩薩とは
観世音菩薩は大乗仏教で信仰される菩薩に属する尊格で、全ての菩薩の基本形とされる仏尊です。
観世音菩薩はサンスクリット語ではアヴァーロキテシュヴァラ(Avalokiteśvara)、或いはアヴァーロキタスヴァラ(Avalokitasvara)と呼ばれます。それぞれ阿縛盧極低湿伐羅、阿唎耶跋盧極羝錬筏囉と音写され、「観察された自在者」と「観察された音」という意味があります。
サンスクリット語の意味から中国では漢訳で観自在菩薩、日本では観世音菩薩と呼ばれるのが一般的です。また観音は「苦しむ人々の声を聴く」という意味に解釈され、日本では「観音様」と言えばこの「観世音菩薩」を指します。
観世音菩薩は『般若心経』の冒頭に出てくる菩薩で、智慧の象徴として扱われます。また初期大乗仏教経典『法華経』の「観世音菩薩普門品(かんぜおんぼさつふもんぼん)」に観世音菩薩の功徳が説かれ、衆生救済のため様々な姿で世に出現するとしています。
そのため仏教の世界観である六道輪廻の各世界を司る千手観音や馬頭観音、如意輪観音など、全て観世音菩薩の化身と解釈されています。
観世音菩薩の仏像の見分け方
観世音菩薩の仏像は条帛(じょうはく)と裙(くん)というスカートを纏い、頭髪は髻(ゲイ)と呼ばれる髪を頭上に高く束ねるもとどりに宝冠と阿弥陀如来の化仏を戴き、腕に臂釧(ひせん)と腕釧(わんせん)、胸には瓔珞(ようらく)といった煌びやかな装飾品で着飾る古代インドの貴族の容姿で表現されます。
また仏であることを表現するため、如来と同様に眉間の上に白毫があります。
観世音菩薩は三尊仏では阿弥陀如来の脇侍と位置付けられ、大勢至菩薩と共に「西方三聖」の一柱とされています。
観世音菩薩の由来
観世音菩薩のサンスクリット語「アヴァーロキテシュヴァラ」は、ヒンドゥー教の三大神の一柱・シヴァ神の別名で、尚且つ「シュヴァラ」はシヴァ神を意味します。
ヒンドゥー教ではシヴァ神は様々な神に変身でき、さらに1000の異名を持つとされています。『観世音菩薩普門品』では観世音菩薩は衆生救済のため三十三も姿を変えて世に現れるとされていることからも、シヴァ神由来の尊格と見てよいでしょう。
観世音菩薩の成立
観世音菩薩の名は初期インド大乗仏教の経典『法華経』にあります。『法華経』は西晋時代の西域の翻訳僧・竺法護(じくほうご)が286年に漢訳していることからも、少なくとも3世紀中葉にはシヴァ神を元に観世音菩薩が成立したと考えられます。
観世音菩薩に「観世音菩薩」と「観自在菩薩」の2通りの名があるのはシルクロード経由で中国へ伝わる過程で音韻変化したからだと考えられています。
西域で発見された5~6世紀頃の写本と思われる『法華経』では観世音菩薩のサンスクリット語「アヴァーロキテシュヴァラ」が用いられ、7世紀以降のサンスクリット語経典では全て観自在菩薩を意味する「アヴァーロキタスヴァラ」が用いられています。
観世音菩薩と中国
『法華経』が説く「観世音菩薩普門品」が比較的初期の段階で中国に伝来したため、中国でも観音信仰が流行しました。中国では「観世音菩薩普門品」が説く三十三応身の例に倣い、観世音菩薩が変化する「三十三観音」が独自に設定されます。
その中15柱は典拠が明確ですが、残りは中国で新たに創作された仏様です。そのため仏像や絵画により、三十三観音の名称や表現が異なります。
観世音菩薩と日本
中国で信仰された観世音菩薩は、飛鳥時代に『法華経』と共に日本に伝来します。
観世音菩薩が一般庶民にまで広く信仰され始めたのは平安時代からです。末法思想や中国由来の地獄観が浸透すると、地獄から衆生を救済する仏様して認知されます。「観世音菩薩普門品」に説く変化観音の性格が六道輪廻と結びつき、六道に既存の菩薩の姿を借りて現れると考えられました。
すなわち天道の如意輪観音、人道の准胝観音(或いは不空羂索観音)、修羅道の十一面観音、畜生道の馬頭観音、餓鬼道の千手観音、地獄道の聖観音の六観音です。そのため『法華経』に説かれた他の仏尊に比べ、観世音菩薩は広く人々の信仰を集めました。
観世音菩薩像と白衣観音
3世紀頃に「観世音菩薩普門品」が中国に伝わり漢訳されると、王族の娘・妙善公主が手で父の眼を治した漢代の故事が、実は観世音菩薩(或いは千手観音)が妙善公主の姿を借りて行った神通力だったと流布するようになります。
観世音菩薩の姿は男性でありながら女性的な雰囲気で表現されます。これは中国の観音信仰の変化に影響を受けています。その証拠に莫高窟など初期の中国の仏教壁画では観世音菩薩はたくましい青年男性の姿で表現されています。
これにより観世音菩薩は女性という認識が強まり、やがて白衣観音という唐風の衣装を着た女性形の菩薩像が中国で成立します。他の観世音菩薩の仏像や仏画も中性的な雰囲気で作られることが増え、日本の白衣観音の仏像もこれに倣って作られています。
観世音菩薩と阿弥陀如来
唐の不空訳『大楽金剛不空真実三摩耶経』で無量寿仏(阿弥陀如来)の別の名を観自在王如来、『悲華経』では阿弥陀如来が過去仏だった時に宝蔵仏に対して観世音の名を与えたとされるています。ことから、阿弥陀如来の脇侍として大勢至菩薩と共に祀られています。
観世音菩薩のご利益
『法華経』の「観世音菩薩普門品」の偈文には、衆生のあらゆる苦しみを取り除くと説きます。
観世音菩薩の真言
唵 阿嚧力迦 娑嚩賀
観世音菩薩が安置されている主な寺院
観世音菩薩は変化観音なので、別途各観音像の安置寺院をご参照ください。
下記のリンクから他の観音を検索できます。
コメント