帝釈天って、どんな仏様?
帝釈天とは
帝釈天(たいしゃくてん)は大乗仏教で信奉される天部に属する護法善神です。サンスクリット語ではシャックロー・デーヴァーナーン・インドラハ(Śakro devānām indraḥ)と呼び、釈迦提桓因陀羅と音写します。また音写の略称は釈提桓因、釈迦提婆で表現します。
シャックローは「能力者」、デーヴァーナンは「天」、インドラハは「皇帝」を意味します。そのため中国で仏教に帰依した者が姓に用いる釈を頭に採る形で漢訳し、帝釈天、天帝釈、能天帝、天主などと表記されます。また千眼、娑婆婆、憍尸迦(きょうかしゃ)など表記する仏典もあります。
帝釈天は戦闘の神で、密教で重視される十二天の第二位に位列します。そのため第一位の梵天と併せて「梵釈」と呼ばれることもあります。
仏典では帝釈天は人間だった頃マガタ国のバラモン階級に生まれ、名を摩伽(まか)、姓を憍尸迦と呼ばれていました。憍尸迦は彼の友人・知人32人を含め福徳を修めたため、その善果から須弥山に転生して帝釈天となったとされます。
帝釈天は須弥山の東方を守護し、頂上にある欲界の忉利天(とうりてん)の善見城(ぜんけんじょう)に住み(或いは喜見城)、阿修羅の娘の舎脂(シャチー)を妻とし、四天王を部下に仏教や仏教徒を守護していると説きます。
また須弥山では人間の百年が1日に相当し、帝釈天の寿命は一千歳。仏説では人は積善すれば誰でも帝釈天として須弥山に転生できるとされ、釈迦も仏陀になる前は30回以上も帝釈天に転生したとされています。
さらに帝釈天は部下に命じて衆生の生活を探り、善行を積む者は寿命を延ばし、悪行を重ねる者は寿命を減らし、それでも懲りない者の命を奪う力があるとされます。
帝釈天の仏像の見分け方
『大日経疏』によれば帝釈天は頭に宝冠を頂き、身を瓔珞(ようらく)などで着飾り、武器の金剛杵を手に持ち、六本の牙を持つ白象に乗り仏陀を守護しているとされてます。
そのため日本の帝釈天の仏像ではこれに倣い、中国唐代の革甲冑を着た武闘神で表現されます。
一方、中国では帝釈天の名前にある「帝」と、寿命を司る性質から、道教の最高神「天帝」のイメージと習合します。
そのため中国の帝釈天は漢服をまとい女性のような柔和な表情の若い青年皇帝の姿で、3人の侍女を侍らせる表現が増えます。日本の仏画でも、漢服をまとった中国皇帝の姿の帝釈天像で描かれる場合があります。
帝釈天の由来
帝釈天のサンスクリット語「シャックロー・デーヴァーナーン・インドラハ」からも分かるように、バラモン教やヒンドゥー教の戦闘神インドラが由来です。インドラは雷を具現化した神でそのルーツは古く、紀元前14世紀に小アジアとイラン地方の両地域をそれぞれ支配していたヒッタイトとミタンニの間で結ばれた契約書に、インドラの名が見られます。
バラモン教とヒンドゥー教の最古の聖典『リグ・ヴェーダ』ではインドラに関する讃美歌が全体の1/4を占め、アーディティヤ神群の一柱としてデーヴァ神族を束ねる中心的な神でした。
しかし時代が下り、ヒンドゥー教でシヴァ神やヴィシヌ神の人気が高まると、インドラの地位はダダ下がりします。絶大無双だったインドラの戦闘能力も、敵対するアスラ神族に敗れ天界を一時追われるなどかなり弱体化します。
さらに時代が下りグプタ朝(3~5世紀)に成立したヒンドゥー教の聖典『マハーバーラタ』では、仏教の帝釈天と同じ世界を守護する方位神ローカパーラ達の一柱として、東方を司る神の地位に落ち着いています。
帝釈天の成立
仏教では帝釈天は護法善神である十二天の一柱として登場します。他の十二天の神々の配置は前述の『マハーラーバタ』のローカパーラとほぼ一致しています。
須弥山を代表する仏教の世界観は、初期インド大乗仏教の経典で4世紀頃成立したと考えられる『金光明経』に描かれています。このことから、インドラもこの頃に帝釈天として仏教に取り込まれたと考えられます。
帝釈天と日本
帝釈天の功徳が説かれる『金光明経』は、日本に仏教が伝来した当初から請来していました。飛鳥時代に作られた国宝『玉虫厨子』にも帝釈天が描かれています。
また奈良時代に聖武天皇が『金光明最勝王経』に基づく国家運営を目指したため、この時代に建築された多くの寺院でこの経典の中心である帝釈天像が祀られました。
後に最澄や空海が正式な密教を日本に請来すると、如来や菩薩が仏教の中心になります。そのため帝釈天の地位も如来や菩薩に従う護法善神の一柱にまで格下げされ、以後帝釈天を単独で祀ることは殆どなくなります。
帝釈天のご利益
『大日経』では積善する者には富貴と長寿をもたらし、積善を怠る者は寿命や財産を減らし、それでも懲りない者はその命を奪うとされます。
帝釈天の真言
唵 印捺羅矢 娑縛賀
南麼 三曼多勃駄喃 鑠吃囉也 莎訶
帝釈天が安置されている寺院
京都府 東寺 木造帝釈天半跏像(国宝)
奈良県 唐招提寺 帝釈天立像(国宝)
奈良県 東大寺 乾漆帝釈天立像(国宝)
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