吉祥天 役割/仏像/由来/ご利益/寺院など詳しく解説

コラム

吉祥天って、どんな仏様?

吉祥天とは

吉祥天は大乗仏教で信奉される天部に属する女性の護法善神です。

サンスクリット語ではシュリー・マハーデーヴィー(Śrī-mahādevī)と呼び、室利摩訶提毘と音写します。シュリーは吉祥、マハーデーヴィーは「偉大なる母」「偉大なる女神」という意味で、仏典では摩訶室利、室唎天女、吉祥天女、吉祥功徳天、宝蔵天女などと表記されます。

吉祥天はその名が示す通り福徳や繁栄をもたらす吉祥の女神で、一切の煩悩や罪も取り除くとされます。吉祥天の功徳を説いた唐の不空訳『大吉祥天女十二契一百八名無垢大乗経』では、未来に吉祥摩尼宝生如来として成仏すると説いています。

吉祥天は家族構成が明確で、父は天竜八部衆の一柱・徳叉迦(とくしゃか)、母は鬼子母神、夫は毘沙門天、妹は黒闇天(こくあんてん)、子は善膩師童子(ぜんにしどうじ)とされています。また毘沙門天の妹と説く経典もあります。

吉祥天の仏像の見分け方

吉祥天の姿は仏典により大きく異なります。日本の仏像は『陀羅尼集経』で説かれる一面二臂の漢服(中国唐代の衣装)を着た女性像が一般的で、左手に如意宝珠、右手に施無畏印を結ぶ姿で表現されます。また毘沙門天の脇侍として子の善膩師童子と共に祀られる場合もあります。

吉祥天を象徴する三昧耶形は如意宝珠です。

吉祥天の由来

吉祥天の由来はヒンドゥー教の女神で最高神ヴィシュヌ神の妻クラシュミーです。吉祥天のサンスクリット語シュリー・マハーデーヴィーのシュリーとはクラシュミーの異名で、マハーデーヴィーは結婚している女神を意味しています。

クラシュミーはヒンドゥー教の天地創造神話『乳海攪拌』で生まれた女神で、美と富と幸福、豊穣を司ります。また貧困と不幸を司るアラクシュミーという姉がおり、吉祥天が黒闇天という妹を持つ関係と同じです※。

※英語のsister【姉妹】に相当する単語なので、実際の所、姉か妹かは判断できません。

吉祥天の成立

吉祥天の名は中期大乗仏教の経典『大集経』巻五七須弥蔵分や、『金光明経』功徳天品に説かれ、概ね2~3世紀頃にクラシュミーが仏教に取り込まれて成立したと考えらえます。

『金光明経』は412~21年にかけインドの翻訳僧・曇無讖(どんむせん)が中国で漢訳し、8世紀に唐の義浄がインドから正式に経典を請来し『金光明最勝王経』を漢訳しています。ただし、中国で吉祥天が信仰されることはほとんどありませんでした。

吉祥天と日本

帝釈天四天王などの天部が護国鎮護を司ると説いた『金光明経』は、早くから日本に伝来します。そこに登場する吉祥天も幸福の女神として認知されていました。

飛鳥時代に壬申の乱で勝利して即位した天武天皇は『金光明経』の護国教義に心酔し、使者を全国に派遣し『金光明経』の講義を行わせています。その結果、『金光明経』で重要な地位を占める吉祥天が全国的に知られます。

また菅原道真の祖父・清公が最澄・空海と共に遣唐使として唐に向かう途中に嵐に遭遇し、最澄と共に祈願したところ吉祥天が現れ難を逃れた、という話が残されています。そのため菅原家では吉祥天を信仰し、菅原道真生誕の地とされる場所に吉祥天を祀る吉祥天満宮が建立されています。

吉祥天と弁才天

当初日本の仏教では吉祥天が豊穣の女神として信仰されていました。しかし後年、同じ女神の弁才天が庶民にまで浸透すると、見た目も性格も酷似した両者の混同が増えます。日蓮宗の守護神である垂迹神(すいじゃくしん)※の七面天女は吉祥天や弁才天が本地仏とされ、意見が一致していません。

また初期の七福神では女の福の神として弁才天ではなく吉祥天が多く描かれています。しかし弁才天がより「お金」に関するご利益が高かったため、江戸時代に商人の間で弁才天信仰が強まるにつれいつの間にか七福神の座を弁才天に奪われたと考えられています。

※ 仏教の如来や菩薩といった尊格が化身して、日本に権現(姿を現すこと)した神のこと。

吉祥天のご利益

『大吉祥天女十二契一百八名無垢大乗経』によると、吉祥天は一切の罪や穢れ、煩悩を除き、財が谷を埋めるほど集まり、貧困が除かれ、争いごとが収まるとされます。

吉祥天の真言

オン 摩訶室唎曳マカシシエイ 莎訶ソワカ

吉祥天が安置されている寺院

奈良県 法隆寺  木造吉祥天立像(国宝)

京都府 浄瑠璃寺 木造吉祥天立像(国重要文化財)

山梨県 福光園寺 木造吉祥天及び二天像(国重要文化財)

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