仏様の由来 仏教の仏様はどこから生まれたのか?を考察

コラム

各仏様の由来について詳しく解説

仏教の仏様と他の宗教の神々の関係

原始仏教では神の存在を否定しています。しかし、日本の仏教を見れば分かるように宗派により本尊とする仏様が異なり、実際に数え切れない仏様が全国に存在します。

実は古代大乗仏教成立時にヒンドゥー教などの神々を仏教側で取り込み、人々にご利益を与える仏教独自の神として作り直したことが原因です。

では実際に他の宗教の神々が仏教のどの仏様になったのか詳しく見てみましょう。

 

ヒンドゥー教由来の仏様

ヒンドゥー教は仏教のライバルだったため、ヒンドゥー教の神々が仏教の仏様になった例が数多く見られます。

シヴァ神由来の仏様

シヴァ神はヴィシュヌ神と並びヒンドゥー教で最も人気のある神。ヴィシュヌ神より活動的で神話が多く、さらに変身するたびに異なる名前を持つことから「1000の名を持つシヴァ」と呼ばれます。そのためシヴァ神由来の仏様が多く、サンスクリット語名がシヴァ神の別名の仏様も少なくありません。

シヴァ神の別名と同じ名前を持つ仏様は阿閦如来観世音菩薩千手観音聖観音不動明王大黒天広目天、大自在天です。その中でシヴァ神そのものが仏教に取り入れられて神が大自在天で、仏教の優位性を示すため仏様の階級で一番下の天部に所属します。

他に仏様の性質からシヴァ神由来と考えられるのが十一面観音不空羂索観音軍荼利明王、そして勢至菩薩。十一面観音の直接の由来は暴風雨の神ルドラですが、ヒンドゥー教ではルドラ神はシヴァ神と同一とされます。本来はルドラ神がシヴァ神の一部として後世に取り込まれた神です。

不空羂索観音は経典に説かれる姿がシヴァ神と同じで、経典にも「摩醯首羅天と同体」と説かれ、摩醯首羅天は自在天の別名です。軍荼利明王はシヴァ神が活躍するヒンドゥー教の創世神話『乳海攪拌』と関係しており、姿かたちがシヴァ神と酷似しています。

勢至菩薩はチベット密教の経典でサンスクリット語名は観世音菩薩の別名とされていることから、元々シヴァ神が由来です。

ヴィシヌ神由来の仏様

ヴィシュヌ神はシヴァ神と並ぶヒンドゥー教で絶大な人気を誇る神ですが、シヴァ神ほど仏様のモデルとなることは少なく、性格や姿から如意輪観音はヴィシュヌが由来と考えられます。ヴィシュヌ神が直接仏教に取り込まれた時の仏様の名は那羅延天で、金剛力士の阿形の名に那羅延が使われています。

また薬師如来は医療の神ダヌヴァンダリ、馬頭観音は馬の頭を持つハヤグリーヴァが直接の由来ですが、ヒンドゥー教ではダヌヴァンダリもハヤグリーヴァもヴィシュヌの化身とされます。ただし、どちらの神も本来はヴィシュヌ神より古い歴史を持つ神です。

またヒンドゥー教で仏教の開祖である釈迦はヴィシュヌのアヴァターラ(化身)とされています。

ブラフマー神由来の仏様

ブラフマー神はヒンドゥー教のシヴァ神、ヴィシュヌ神と並ぶ三大神の一柱です。ただしブラフマーはシヴァ神やヴィシヌ神と違い複数の仏様とはならず、仏教では梵天として取り込まれます。

ブラフマー神は観念的でご利益を求める一般庶民には人気がなかったため、仏教側でも積極的に仏様として展開しなかったと思われます。ただし、釈迦が悟りを開いた時には非常に重要な役割を果たします。

ヒンドゥー教の女神由来の仏様

ヒンドゥー教は様々な女神が存在し、男性神の妻となることが多いのが特徴です。

ブラフマーの妻サラスヴァィーが由来の仏様は弁才天孔雀明王。弁才天は名前も姿もサラスヴァティーそのまま。孔雀明王は性質や乗り物がサラスヴァティーと同じです。

シヴァ神の妻であるパールヴァティーが由来の仏様は准胝観音と白衣観音。どちらの観音もパールヴァティーの別名がサンスクリット名として宛がわれています。また経典によっては弁才天の姿がサラスヴァティーの化身で戦闘の女神のドゥルガーが由来と考えられるものもあります。

ヴィシュヌ神の妻ラクシュミーが由来の仏様は吉祥天で、クラシュミーの別名に吉祥天のサンスクリット語が宛がわれています。

その他のヒンドゥー教の神が由来の仏様

シヴァ神とパールヴァティーの間には2人の息子がおり、象の顔を持つガネーシャは歓喜天(聖天)、戦闘の神スカンダは韋駄天として仏教に取り込まれます。

また愛染明王はその性質から愛欲の神カーマデーヴァが由来。降三世明王はシヴァ神と対立したシュンバ・ニシュンバ兄弟神が合体した仏様です。

古代インドの神が由来

ヒンドゥー教が成立する以前からインドには様々な土着の神が存在し、時にはヒンドゥー教の神々と敵対する悪魔として描かれます。しかしヒンドゥー教と敵対する仏教から見れば「敵の敵は味方」で、仏教側で善神として取り込まれます。

ヤシャ由来の仏様

ヤシャはヒンドゥー教では神通力を持つ一方でその多くは人の肉を食らうと鬼神で、その多くは悪神とされます。ヤシャそのものは仏教で夜叉として天部の護法善神として取り込まれ、その多くが名のある仏様の眷属として扱われます。

ただし古代インドで絶大な影響力を持っていたヤクャは仏教でも地位の高い尊格として扱われます。毘沙門天はヤシャの王で財宝神クーベラが由来。大威徳明王はクーベラの部下のヤシャ、アータヴァカが由来です。金剛夜叉明王もその名が示す通り。また荼枳尼天の由来は女夜叉のダーキニーです。

その他のインドの古代神が由来の仏様

帝釈天は雷神インドラが由来。また烏枢沙摩明王のサンスクリット語は炎神アグニの別名が由来です。また閻魔天は古代インドで最初に死んだ人間とされるヤマ、摩利支天は暁の女神であるウシャスが由来です。

虚空蔵菩薩地蔵菩薩は古代インドの地母神であるディヤーヴァー(ディヤウス)とプリティヴィーが由来。プリティヴィーは仏教では別に地天として採用されています。

ゾロアスター教その他の宗教が由来の仏様

仏教はヒンドゥー教やバラモン教の神以外からも仏様のモデルにしています。

ゾロアスター教由来の仏様

古代ペルシャで成立したゾロアスター教は世界最古の宗教で、インドの宗教観に多大な影響を与えています。ゾロアスター教の最高神はアフラ・マズダーの「アフラ」はインドで「アスラ」と呼び、インド世界では悪魔とされます。アスラは天部の阿修羅の語源で、大日如来は阿修羅族の王の名が由来です。

また阿弥陀如来は明確にこの神が由来というものはありませんが、その性質からゾロアスター教由来の尊格と考えられています。

ギリシャ神話由来の仏様

世界最古の仏像であるガンダーラ仏はアレキサンダー大王の東征以後、ガンダーラ地方に移住してきたギリシャ人によって作られています。ガンダーラ仏の装飾にはギリシャ地方で信仰されていた神々の姿がたびたび描かれています。

仏教で夜叉に属する鬼子母神はギリシャ神話の地母神ティケーが由来。ガンダーラ仏で鬼子母神として描かる仏像はティケーと酷似しています。また金剛力士の姿はヘラクレスが由来です。さらに古代ギリシャには太陽神ミトラを信仰するミトラ教があり、弥勒菩薩の由来とされています。

古代の人物が由来

仏様の名前の中には古代インドの人名からとられたものもあります。

釈迦如来は仏教の開祖の釈迦が由来。増長天のサンスクリット語ヴィドゥーダバと持国天のドゥリタラーシュトラは共に古代インドの聖典に記されている王の名です。また普賢菩薩はインド大乗仏教を大成したとされる竜樹が由来と考えられます。

仏様が生まれた背景

仏様が生まれた背景には仏教やヒンドゥー教の世界観である輪廻転生が関係しています。

アーリア人のインド支配と輪廻転生

人は死ぬと次の世界で何者かに生まれ変わるという輪廻転生の概念は仏教に限らず古代インド・ペルシャ地域に生まれた原始宗教の共通概念です。現在インド人を民族で分けるとインド・アーリア人と呼びますが、厳密には北方のインド・アーリア系と南方のドラヴィタ系に分かれます。

先にインド亜大陸に侵入してきたのはドラヴィタ人で、紀元前5300年頃に東アフリカから移住してきたと考えられ、やがてインド一帯に勢力を伸ばします。種族上はオーストラロイドに属し、世界4大文明の一つ・インダス文明はこのドラヴィタ人が作ったことが分かっています。

一方、アーリア人は元々中央アジアの騎馬民族で、種族上は白人と同じコーカソイドに属します。彼らは高い機動力と青銅製の武器を持っていました。

紀元前1500年頃、ユーラシア大陸とインド亜大陸を貫く山脈地帯を抜ける交通の要所・カイバル峠を超えインドに侵入。高い武力で瞬く間に先住民のドラヴィタ人を征服します。

輪廻転生はそもそも身分制正当化を図る手段

アーリア人はドラヴィタ人を絶対的な支配下に置くため、現在インドの階級制度のカーストに当たる四姓制を制定します。

四姓制とは最上階級で司祭職のバラモン、王族や戦士からなるクシャトリア、庶民階級のヴァイシャ、奴隷階級のシュードラで、各階級間以外と通婚を禁止します。そしてドラヴィタ人のほとんどを奴隷階級のシュードラに分類しました。

またドラヴィタ人の反乱を防ぐため、輪廻転生の概念を利用したバラモン教を作り精神的にも支配することを企てます。それは現世で解脱(バラモン教でいう精神の自由)の追求を許されるのはバラモン階級だけ、来世でバラモン階級に生まれたければ現世で善行を積まなければならないというものです。

つまり反乱など支配階級に不都合なことを起こせば来世でバラモンに生まれ変われず、さらに下の階級に落ちてしまいます。そのため上位階級の支配や不条理という苦痛に耐えながらひたすら現世で善行を行わなければならないという宿命を背負わされます。

この考えは最終的にウパニシャッド哲学として体系化され、アーリア人によるインド支配は確立。現在もカースト制と輪廻転生の思想はインド社会に根深く息づいています。

仏教は輪廻転生からの脱却を図った宗教

仏教の開祖の釈迦は元々クシャトリア階級の出身です。釈迦は紀元前5世紀頃、コーサラ国の属国のシャーキヤ国の王子として生まれます。丁度その頃、バラモン教の支配が長く続いたインドでは、その思想に反発し修行を通じ新しい道を探る沙門と呼ばれる人々が現れます。

元々釈迦もそのような沙門の一人で、王族の地位を投げ出し沙門として解脱の道を歩みます。最終的に釈迦は正しい修行を通じ煩悩を消せば、身分に関わらず輪廻の苦しみから解脱し成仏できるという仏教を完成させます。

これは当時バラモン教の支配下で苦しむ人々にとって画期的な教えで、瞬く間に信者を集めました。釈迦入滅後も仏教は拡大を続け、紀元前3世紀にはマウリヤ朝のアショーカ王の元で国教と信仰されるに至ります。

ヒンドゥー教の誕生と原始仏教の没落

仏教がインドで勢力を伸ばすのとほぼ時を同じくして、バラモン教とインドの土着信仰が結びついたヒンドゥー教が自然発生的にインドで広がります。

ヒンドゥー教は仏教と違い特定の教義を持たず、ウパニシャッド哲学に説かれた輪廻転生の原理を拠り所にし、自分の信じる神の下で現世での解脱を図る思想です。

ヒンドゥーの解脱とは仏教のような禁欲的なものではなく、道徳(ダルマ)と富(アルタ)、愛欲(カーマ)を通じ最終的に得られるとされます。そのため仏教で否定的な富や愛欲を肯定し、これを現世で叶えてくれる神々が数多く誕生します。これは下層階級で苦しむ人々の心を捉えます。

それが現在ヒンドゥー教で人気の高いシヴァ神やヴィシュヌ神です。これらの神々は現世で実際に苦しむ人々に様々なご利益を与えると説くため、形而上学的で実質的に現世で苦痛が除かれない仏教を瞬く間に駆逐。紀元前後にはインドでヒンドゥー教が仏教に取って代ります。

仏教の神々の誕生

釈迦が開いた原始仏教では、人の心を惑わす神を否定しています。しかし仏教僧とはいえ所詮人間です。ヒンドゥー教の勢力拡大で仏教徒の数が減ると、実際問題として信徒からの寄進が減るので仏教僧たちも食べてはいけません。

そこで信者獲得のため、ヒンドゥー教や他の宗教の神を基に現世でご利益を与えてくれる仏教の神々が数多く誕生します。これが古代インドで成立した密教で、日本の仏教にも多大な影響を与えています。

密教ではヒンドゥーの神々と同様に仏様は呪文や儀式を通じご利益を与える存在とされ、この時期に書かれた経典の多くに教義と共に陀羅尼と呼ばれる呪文や儀式の方法が述べられています。これが中国や日本、チベットなどに伝わり現在に至ります。

科学知識の乏しい時代では、呪文や秘儀により仏様のご利益が得られる教義はすぐさま人々の心を捉え、インド以外の諸国で再び仏教が勢力を増す原動力となりました。

まとめ

以上のように、ヒンドゥー教やその他の宗教の神々をもであるとした仏様にご利益があるのは、仏教では至極当然のこと。ぜひあなたもお寺の仏様にお参りし、あなたの願い事を叶えてください。

コメント

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