摩利支天 役割/仏像/由来/ご利益/寺院など詳しく解説

コラム

摩利支天って、どんな仏様?

摩利支天とは

摩利支天は大乗仏教で信奉される天部に属する護法善神です。サンスクリット語ではマリーチ(Marīcī)で、摩利支天はサンスクリット語の音写です。他にも摩里支天、末利支天とも音写します。

サンスクリット語のマリーチは「陽炎」や「極光」の意味があり、本来は女性格の仏様です。そのためチベット密教では光明仏母、具光仏母、摩利支天母、摩利支天菩薩と呼び崇められています。

摩利支天が中国へ伝わると「極光」の意味から道教の北斗信仰と習合し、北極星の化身である紫微大帝の妻とされています。

一方日本では摩利支天の性別が変わり、男性格の仏様として信仰されています。唐の翻訳僧不空が漢訳した『摩利支天経』によれば、自然の陽炎が捉えられないように摩利支天を信仰すると災いから身や財産を隠し逃れられると説といています。

また『覚禅鈔』では阿修羅帝釈天と争い太陽と月を奪おうとした際に、摩利支天は帝釈天に味方して太陽と月を隠し略奪から守ったとされています。そのため除災や盗難除けの神として信仰されています。

摩利支天の仏像の見分け方

宋代に北インド出身の天息災法師(980年中国に来朝)が漢訳した『仏説摩利支天経』では、摩利支天の身は金色に輝き、三面三眼で頭上に頭を戴いた冠を被るとされています。

また腕は六臂か八臂で、手には蓮華、卍が描かれた扇子、蓮華、羂索、弓矢、金剛杵、針、斧などを持ちます。さらに猪に乗り、その周囲も猪の群れが囲むと説かれています。

そのため日本の摩利支天の仏像は猪に乗った菩薩形か明王の姿で表現されるのが一般的です。

摩利支天の由来

不空訳の『摩利支天経』によれば、摩利支天は日天や月天の前に出現するとされるものの、その姿は見ることができないとされます。これは暁や夜明けの神を示唆し、古代インドの聖典『リグ・ヴェーダ』に出てくる暁紅の女神ウシャスが由来と考えられます。

ウシャスは馬或いは牛が牽く馬車に乗り、その光で闇や悪魔を払い、人々を覚醒させる力があります。しかし太陽神の母スーリヤが彼女を抱きしめると消えるとされています。『リグ・ヴェーダ』ではウシャスに捧げる讃美歌が40曲もあり、古代インドで重要な神だったことが分かります。

摩利支天の成立

摩利支天については前述の不空訳『摩利支天経』や唐の阿地瞿多(あじくた)が翻訳した『陀羅尼集経』に詳しく、これらは中期密教的な要素が強い経典です。そのため6~7世紀頃にウシャスが仏教側に取り込まれ摩利支天として成立したと考えられます。

中国では宋の仁宗から高宗の時代に、除災を目的とした天息災法師漢訳の『仏説摩利支天経』が一時期流行し、日本の摩利支天信仰にも大きな影響を与えたと考えられています。

摩利支天と日本

摩利支天は平安時代に最澄や空海らが日本に密教を請来したのと同時に伝来し、主に密教や修験道の修行者たちの間で信仰されました。天台宗、法華宗、日蓮宗では国家や仏教修行者を守る三十番神の一柱として摩利支天が信仰されます。

また曙と関連する仏様なので山岳信仰の対象となり、木曾御嶽山には摩利支天山、乗鞍岳には摩利支天岳、甲斐駒ヶ岳には摩利支天峰と呼ばれる山があります。

摩利支天と武士

鎌倉時代に再び中国への留学が盛んになると、中国から禅宗がもたらされます。当時の中国では摩利支天信仰が流行し、当然留学僧たちも摩利支天の修法を持ち帰ったと考えられます。そのため日本の禅宗の間でも摩利支天が盛んに祀られます。

鎌倉時代、自分の内面に向き合う禅宗は生死の狭間で生きる武士階級に広く信仰さており、武士たちも禅寺に祀られる摩利支天像を見ていたと考えられます。

摩利支天は「身を隠して守る」ご利益があり、常に敵に襲われる危険性がある武士たちの間で恰好の信仰対象となりました。鎌倉幕府を打倒した楠木正成は摩利支天の念持仏を兜の中に納めて戦に臨み、戦国武将の毛利元就や立花道雪は摩利支天の名号が書かれた旗を軍旗としました。

また武田信玄の軍師・山本勘助は25歳の時に高野山で武芸上達を祈願した際に夢で空海が作った摩利支天像を授かったとされ、終生襟に掛けてお守りとしています。槍の又左の異名を持つ前田田利家は摩利支天を守護本尊とし、江戸幕府を開いた徳川家康も摩利支天の念持仏を持ち歩いています。

さらに『忠臣蔵』で有名な大石内蔵助も髷の中に摩利支天の小像を入れて吉良邸へ討ち入りし、見事本懐を遂げたともいわれています。

摩利支天と忍者

摩利支天は隠密行動を主とする忍者の間でも信仰されています。

忍者が身を隠す法として「九字護身法」以外に、摩利支天の印を結ぶ「摩利支天隠形法」の真言が唱えられていることからも、その信仰の深さが分かります。

摩利支天のご利益

『仏説摩利支天経』によれば、摩利支天を信仰するとあらゆる災いから身と財産を隠し守れるとされています。

摩利支天の真言

曩莫三満多ノウマクサンマンダ 没駄南ボダナン 唵摩利制曳オンマリシエイ 莎訶ソワカ

摩利支天が安置されている寺院

東京都 徳大寺 開運摩利支天像

石川県 宝泉寺 摩利支天像(前田利家の秘仏)

京都府 禅居庵 摩利支天像(秘仏)

 

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