愛染明王 役割/仏像/由来/ご利益/寺院など詳しく解説

コラム

愛染明王って、どんな仏様?

愛染明王とは

愛染明王(あいぜんみょうおう)は大乗仏教の密教で信奉される明王に属する尊格です。サンスクリット語ではラーガ・ラージャ(Rāgarāja)と呼び、羅誐羅闍と音写されます。ラーガ・ラージャは「愛欲の王」の意味で、ラーガが「染まる」の意味を含むため愛染明王と漢訳されました。

また別名で「マハー・ラーガMahārāga」とも呼ばれ、こちらは「偉大な愛」を意味します。そのため密号では離愛金剛と呼ばれます。

愛染明王はその名が示す通り人の愛欲と関係しています。『金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経(こんごうぶろうかくいっさいゆがゆぎきょう)』の愛染王品では、愛染明王は愛欲と大貪染(とんぜん)をそのまま浄菩提心(悟りの心)に変える力があると説きます。

また愛染明王は金剛界曼荼羅で大日如来と相対する金剛薩埵(こんごうさった)の化身とされ、胎蔵界曼荼羅では不動明王に対応します。ただし不動明王と違い、金剛界曼荼羅の中に愛染明王は描かれません。

愛染明王の仏像の見分け方

愛染明王の仏像は基本的に『瑜祇経』を基に一面三眼六臂の忿怒形で制作されます。その姿は赤い皮膚で頭上に五鈷鉤が突き出た獅子の冠を頂きます。

また六本の腕はそれぞれ弓と矢、金剛鈴、金剛杵、蓮華を所持し、最後の一手は何も持たない姿で表現されます。

さらに法瓶に生けられた蓮華の上に結跏趺坐(けっかふざ)し、光背として日輪を背負います。

愛染明王の由来

愛染明王のサンスクリット名「ラーガ・ラージャ」は4~6世紀にかけて編纂された大乗仏教のサンスクリット経典には登場しないため、その由来は明確ではありません。

ただし、古代インド神話には愛の男性神であるカーマデーヴァ(愛の神、デーヴァは「神」の意。)がいます。カーマデーヴァは愛染明王と同じく弓と矢を持ち、西欧のキューピッドと同様にカーマデーヴァの矢で射られた者は恋に落ちると言われています。

『クマーラ・サンバヴァ』の神話には、シヴァ神と女神パーヴァティーとの間に子を生ませるためシヴァ神を弓矢で射り見事結婚させる逸話が記されています。しかし、この逸話ではシヴァ神が瞑想修行をしていた最中の出来事だったため彼の怒りを買い、カーマデーヴァは焼き殺されてしまいます。

またカーマデーヴァはマーラ(魔王)の別名があり、明王の性格があることを示唆しています。さらにヒンドゥー教では愛欲や性欲(カーマ)は悟りと同レベルで肯定され、愛欲をそのまま浄菩提心(悟りの心)に変える愛染明王の能力と同じです。

一方で、古代仏教では愛欲は煩悩として否定され、悟りを得るには修行で乗り越えなければなりません。しかし愛欲の否定はヒンドゥー教の影響下のインド庶民には簡単に享受できない感情です。そのため仏教側で信者獲得のためにカーマデーヴァを基に同じ性格の愛染明王が作られたと思われます。

愛染明王の成立

愛染明王の名は真言宗の総本山・高野山金剛峰寺の名の由来となった『金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経』に見られます。この経典は南インドの翻訳僧・金剛智が漢訳したことが知られています。

金剛智(617~741年)は31歳の時(648年頃)に南インドで2世紀頃大乗仏教を大成した龍樹(ナーガルジュナ)の愛弟子・竜智の元で『金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経』を学んだとされています。龍智は密教の秘法で700歳になるまで生きたと伝えられますが、実際に龍智が龍樹に学んだかは不明です。

そのため少なくともインド密教が誕生した7世紀前半には愛染明王が成立し、インド密教で重要な地位を占めていたことが分かります。

愛染明王と日本

愛染明王と密教

愛染明王について説いた『金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経』は、空海が日本に請来します。同経典の「愛染王品第五」に愛染明王の修法が記され、「息災・増益・敬愛・調伏のご利益があり、能滅無量罪能⽣無量福(罪を滅すること際限が無く、無限の福が生じる)の功徳がある」とされます。

『金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経』は両界曼荼羅の金剛界について説いた経典で、愛染明王は金剛界最高の明王に位置付されます。そのため胎蔵界で最高とされる不動明王と対等な地位が与えられました。浅草浅草寺や成田山新勝寺など愛染明王と不動明王両尊を並列で祀る寺院は少なからず存在します。

『金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経』に説かれた息災・増益・敬愛・調伏のご利益をもたらす愛染明王の「愛染法」は、真言宗・天台宗共に重要な修法として加持祈祷に使われています。

愛染明王と日蓮宗

『法華経』を基に日蓮宗を開いた日蓮は天台宗の比叡山で学び、高野山にも遊学しています。その両宗派で愛染明王を不動明王と並ぶ重要な尊格と見なしていました。そのため日蓮は根本経典『法華経』に愛染明王が登場しないにも関わらず、大曼荼羅中に愛染明王の梵字を配置しています。

愛染明王と日本の民間信仰

平安時代以降、愛染明王の仏像が作られ寺院で祀られると、恋愛や縁結び、結婚、家庭円満を叶える仏様として人々の信仰を集めました。愛の契りを愛染明王の前で行うことも盛んでした。また愛染明王は愛欲を否定せず救済する仏様なので、遊女や水商売の女性の間でも信仰されました。

さらに「愛染」が「藍染」に通じるため、染め物業者の守護仏として信仰されます。中世以降、6月1日に愛染明王が祀られる四天王寺勝鬘院(しょうまんいん)に参拝する愛染講は現在も続いています。

愛染明王のご利益

『愛染明王法』では仇敵だった人とも相思相愛となり、災いが収束し、神のご加護が得られ、幸福と財宝で満たされるとしています。

愛染明王の真言

ウン 吒枳タキ 吽惹ウンジャク 吽悉地ウンシッタ

愛染明王が安置されている寺院

大阪府  勝鬘院   愛染明王坐像

滋賀県  舎那院   木造愛染明王坐像(国重要文化財)

和歌山県 金剛三昧院 愛染明王坐像(国重要文化財)

愛知県  赤岩寺   木造愛染明王坐像(国重要文化財)

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