孔雀明王って、どんな仏様?
孔雀明王とは
孔雀明王とは大乗仏教の密教で信奉される明王に属する尊格です。サンスクリット語ではマハー・マユーリー・ビドヤーラー・ジニー(Mahāmayūrī‐vidyā‐rājñī)と呼び、摩訶摩瑜利羅闍闍(まかまゆりらじゃ)と音写されます。
孔雀明王のサンスクリット語のマハーは「偉大」、マユーリーは「孔雀」を意味するマユーラの女性形、ビドヤーラー・ジニーは「明妃」という意味で、明らかに女性格の仏です。
漢訳で孔雀明王と表記されますが、そのほかに孔雀王母菩薩,孔雀仏母、仏母大孔雀明王、孔雀王などと表記されます。また孔雀明王は胎蔵界曼荼羅の悉地院(しっちいん)の第六位に安置され、密号では仏母金剛、あるいは護世金剛と称されます。
孔雀明王はその名の通り孔雀を神格化した仏様です。明王の中では珍しく慈悲相の菩薩形の尊格で、孔雀に乗った姿で表現されます。仏教が生まれたインドでは、毒蛇を食べる孔雀は神格化しています。
そのため孔雀明王も諸毒をはじめとした災いや恐怖を取り除き、諸事円満をもたらす仏様とされます。後世、仏教で克服すべき煩悩を「三毒」で表現したことから、毒を除く孔雀明王は仏道成就を成功させる仏とし篤く信仰されました。
孔雀明王の仏像の見分け方
孔雀明王の仏像は経典により一面二臂、一面四臂、三面六臂、三面八臂が存在します。日本の孔雀明王の仏像は唐の不空訳『大孔雀明王画像壇場儀軌』を基にした一面四臂の菩薩形で表現されるのが一般的です。
孔雀明王は白い肌とされ孔雀の上に坐し、四本の手にはそれぞれ蓮華、クジャクの羽、具縁果、吉祥果を持ち、それぞれ敬愛、調伏、増益、息災を意味するとされています。
孔雀明王を象徴する三昧耶形は孔雀の羽です。
孔雀明王の由来
孔雀明王はヒンドゥー教の三大神の一柱であるブラフマーの妻サラスヴァティーが由来です。
ヒンドゥー教では神々が乗るヴァーハナと呼ばれる乗り物があり、孔雀は一般的に男性の軍神スカンダのヴァーハナと規定されます。一方で、サラスヴァティーのヴァーハナも孔雀とされることがあります。サラスヴァティーの孔雀は毒蛇を喰らい、その毒を悟りの光で輝く羽に変えるとされています。
またサラスヴァティーは孔雀明王と同じく4本の腕を持ち、さらに白い蓮華に座る姿でも現されます。彼女は水と豊穣の女神であり、この水の力で汚れを清め本質を見抜く力があるとされます。これらの性質は孔雀明王と共通性があります。
護法善神の弁才天のサンスクリット語もサラスヴァティーですが、ヒンドゥー教の神を仏教で複数の神として分化することはよくあります。そのため孔雀明王はサラスヴァティーをモデルに仏教で生まれた仏様と考えて良いでしょう。
孔雀明王の成立
孔雀明王のサンスクリット名マハー・マユーリー(孔雀明妃)は、初期インド密教の『五護陀羅尼』中に5人の女神の一柱として登場しています。
『五護陀羅尼』は、『孔雀経』『大随求陀羅尼』『守護大千国土経』『大寒林陀羅尼』『大護明陀羅尼』の5つの陀羅尼を体系化した経典です、そのため孔雀明王は、初期インド密教の中でもかなり初期(3世紀頃)の段階で仏教内で成立していたことが分かります。
5~7世紀にかけて作られたインド中部のムンバイにある仏教・ヒンドゥー教・ジャイナ教の石窟寺院遺跡エローラ石窟群にマハー・マユーリーの名を冠した女性の姿の石像があり、この頃すでに重要な仏様だったことが伺えます。
孔雀明王と中国
『仏母孔雀明王経』は漢代には既に中国にもたらされ、病の毒を除くため医療の場で同経典を通読することが大変流行しました。
その後も後秦(384~417)の鳩摩羅什(くまらじゅ)訳『孔雀王咒経』、梁代(502~557年)の翻訳僧・伽婆羅(かばら)訳『孔雀王咒経』、唐の不空訳『仏母大王経』、唐の義浄訳『仏説孔雀咒王経』などが翻訳されています。
孔雀明王の修法「孔雀経法」は息災と祈雨、止雨が主要な功徳だと説いでいるため、中国でも天災を治める修法として盛んに執り行われました。
孔雀明王と日本
中国で孔雀経法が盛んだったこともあり、7世紀に修験道を確立したとされる役小角(えんのおづぬ)が17歳の時に元興寺で孔雀明王の咒法を学んだと言われています。この伝承が確かなら、650年前後には日本に孔雀経法が雑密の形で日本に伝来していたことになります。
この話は平安時代初期に著された『日本霊異記』(一説に822年)に掲載されてます。
実際に『孔雀明王経』を請来したのは弘法大師空海です。弘仁12年(821年)『大孔雀明王画像壇場儀軌』をも元に描かれた孔雀明王像を空海が供養したことが知られています。『日本霊異記』が成立した年代とほぼ一緒なので、役小角の孔雀経法の伝承はこの時代の創作だったと考えられます。
孔雀経法は真言、天台両密教で鎮護国家と祈雨の修法として重要視され、11世紀頃には五大明王法と共に四大修法の一つとして、除災、病気治癒、延命、安産祈願など現世ご利益を得るため盛んに孔雀経法の修法が執り行われました。
※陀羅尼や修法など断片的に伝わった密教のこと。
孔雀明王のご利益
『仏母大孔雀明王経』には孔雀明王の陀羅尼を唱えると一切の毒害が除かれ、災いが止み、難を逃れ、寿命が延び、干ばつの時は雨を降らせ、長雨の時は雨を止めるとされています。
孔雀明王の真言
唵 麼庾囉訖蘭帝 娑嚩訶
孔雀明王が安置されている寺院
和歌山県 金剛峰寺 孔雀明王像(国重要文化財)
奈良県 正暦寺 木造孔雀明王坐像
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