地蔵菩薩 役割/仏像/由来/ご利益/寺院など詳しく解説

コラム

地蔵菩薩って、どんな仏様?

地蔵菩薩とは

地蔵菩薩は大乗仏教で信仰される菩薩に属する尊格です。サンスクリット語ではシクティガルバ(Ksitigarbha)と呼び、乞叉底蘖娑と音写されます。

クシティは「大地」、ガルバは「子宮」の意味があるため、中国で漢訳の際に大地の意訳の「地」と、「子宮」を「隠す」という意味に転じ「蔵」の字を充て地蔵菩薩としました。

『地蔵菩薩本願経』では地蔵菩薩は釈迦の入滅以降、56億7千万年後に弥勒菩薩が未来仏として再びこの世に現れまでの間、苦しむ衆生を救済することを請願したと仏とされます。また『地蔵十輪経』では釈迦に学び衆生救済を発願したとされ、釈迦の精神の正統な継承者としています。

さらに六道輪廻では各道を司る六観音とは別に、六道全ての衆生を救済する力があるとされます。

地蔵菩薩の仏像の見分け方

地蔵菩薩の仏像は他の菩薩と違い剃髪した沙門(僧侶のこと)の姿で表現されます。地蔵菩薩は他の如来同様に額に白毫(びゃくごう)があり、袈裟を身にまといます。また装飾は無いか瓔珞(ようらく、首飾りのこと)程度。

右手に錫杖、左手に如意宝珠を持つか、あるいは左手に如意宝珠、右手に与願印を結ぶ形の仏像が一般的です。

また地蔵菩薩の眷属として掌善童子(しょうぜんどうじ)掌悪童子(しょうあくどうじ)を従える場合があります。

一方で胎蔵界曼荼羅の地蔵院に描かれる地蔵菩薩はいわゆる菩薩形で、髪を結いあげ、左手に如意宝幢を立てた開花蓮華、右手に如意宝珠を持つ姿で表現されます。

地蔵菩薩を象徴する三昧耶形は如意宝珠、宝幢、錫杖です。

地蔵菩薩の由来

地蔵菩薩のサンスクリット語「シクィガルバ」の「ガルバ(子宮)」の名を持つ菩薩に虚空蔵菩薩がいます。虚空蔵菩薩の「虚空」はサンスクリット語の「アカーシャガルバ」の「アカーシャ」は「天空」を意味し、元々地蔵菩薩と虚空蔵菩薩は「天地」一対の概念を表していたと考えられます。

また地蔵菩薩も虚空蔵菩薩も「子宮」という女性と関連する名が充てられていることからも、古代ぼ地母神信仰が関係していることを示唆しています。

インドの古代神話『リグ・ヴェーダ』の中に、夫で天空の神であるディヤウスと大地の女神プリティヴィーを一対の神とし、ディヤーヴァープリティヴィーと呼んでいます。女神のプリティヴィー自体は仏教で別に地天として取り込んでいます。

仏教でヒンドゥー教のシヴァ神の性格を分解し複数の仏尊を生んだように、虚空蔵菩薩と地蔵菩薩はディヤーヴァープリティヴィーの概念を分化し、それぞれ別の尊格として仏教に取り込んだと考えられます。

後に虚空蔵菩薩の名にある「空」が仏教の理念に相当するので智慧の仏に変化したのに対し、大地を象徴する地蔵菩薩は地母神の母性をそのまま引き継ぎ衆生を救済し様々なご利益を与える尊格になったと考えられます。

地蔵菩薩の成立

大乗仏教で地蔵菩薩は末法思想と関連する菩薩です。末法思想は中期大乗仏教(3~5世紀)の時代に現れたとされ、その時代に編集された『大集経』には地蔵菩薩に関する功徳を説いた『地蔵菩薩本願経』『大乗大集地蔵十輪経』『大方広十輪経』が収録されています。

またこの『大集経』には虚空蔵菩薩の功徳を詳らかにした経典が6巻も編集され、この2柱の関連性を強く伺わせます。

中国で唐代に『大乗大集地蔵十輪経』が玄奘三蔵によって新たに翻訳され、この世を救済する菩薩として玄奘自身が地蔵菩薩を崇拝の対象としました。これにより民間でも地蔵菩薩信仰が広がり、沙門形の地蔵菩薩像が盛んに作られます。

また地蔵菩薩が六道輪廻の地獄道の衆生も救済することから、中国土着の宗教である道教の地獄観と結びつき『仏説地蔵菩薩発心因縁十王経』なる偽経まで編纂されます。

この経典では道教で地獄の裁判官とされる閻魔王が地蔵菩薩の発願に感服し、以後地蔵菩薩の働きを援助するようになったと説かれます。後に閻魔王と地蔵菩薩が同体と見なされ、中国独自の地蔵菩薩信仰が形成されます。

地蔵菩薩と日本

地蔵菩薩と地獄の関係

地蔵菩薩は奈良時代には日本に伝来したと考えられています。しかし地蔵菩薩が一般化したのは浄土思想が民衆に広がる平安時代以降です。

当時、現世で罪を犯した者は極楽浄土には行けず、必ず地獄に堕ちると信じられていました。そのため地獄で苦しむ衆生を救済する地蔵菩薩が人々の信仰を集めます。

六地蔵

また『地蔵十輪経』では地蔵菩薩は六道輪廻全ての衆生を救済するとしあことから、六地蔵信仰も盛んになります。平安時代後期に建立された岩手県の国宝・中尊寺金色堂に見られる藤原三代の須弥壇にも六地蔵が安置されるなど、日本各地で六地蔵が祀られました。

地蔵菩薩と道祖神

地蔵菩薩と道祖神の習合

地蔵菩薩は六道世界を往来できるため、この世とあの世の境界線の守り神で日本土着の神の道祖神と習合します。地蔵菩薩の功徳を説いた『地蔵菩薩本願経』には「疫病や盗賊に合わない」「行く場所でことが上手に運ぶ」など旅の安全に関連したご利益がありました。

そのため、日本各地で道祖神の地蔵菩薩の石仏が作られ、道標として村の境界や辻、道端に祀られました。

子供の守護神

道祖神は病が村に入るのを防ぐ「塞の神」の側面があります。当時病気で親より先に亡くなる子供が多くいました。民間信仰では親より先に死んだ子供は冥途の途中の賽の河原で石の塔を完成させない成仏できない罰を受けますが、鬼が完成前に壊すので永遠の責め苦に喘ぐと信じられていました。

そのため道祖神信仰と習合し、地獄の救世主の地蔵菩薩が賽の河原で苦しむ子供を救うという発想が生まれます。これがさらに子授け、安産の神である神道の子安神と習合し、地蔵菩薩は子供の神様であるという「子安地蔵」信仰が誕生します。

必勝祈願の神として

また近畿、中部、関東にかけて道祖神を「シャクジ」と呼び、「将軍」の漢字を当て字していました。そのため道祖神の地蔵菩薩を「将軍地蔵」と呼ぶようになります。

神仏習合の過程で生まれた本地垂迹(ほんじすいじゃく)では地蔵菩薩のご利益に火伏や盗難除けのがあることから、同じご利益がある愛宕権現(あたごごんげん)と習合し、甲冑姿で馬に乗る「勝軍地蔵」が誕生。戦勝祈願の神として祀られます。

この勝軍地蔵は征夷大将軍に任命され坂上田村麻呂が東北平定の際に戦勝祈願に彫ったという伝承を生み、やがて武家の間で必勝祈願の仏として信仰されました。このように地蔵菩薩は上は貴族や武家、下は一般庶民に至るまで現世ご利益を与えてくれる最も身近な仏となりました。

地蔵菩薩のご利益

『地蔵菩薩本願経』には人に対する二十八種利益と、天龍鬼神への七種のご利益が説かれています。主なご利益として仏神から守護が得られ、病や災害に遇わず、富貴に恵まれ、智慧が得られ、必ず成仏できるとされています。

地蔵菩薩の真言

オン 訶訶訶カカカ 尾娑麼曳ビサマエイ 娑嚩賀ソワカ

地蔵菩薩が祀られている主な寺院

奈良県 法隆寺   木造地蔵菩薩立像(国宝)
奈良県 東大寺   木造地蔵菩薩立像(国重要文化財)
京都府 広隆寺   埋木地蔵菩薩坐像(国重要文化財)
京都府 六波羅蜜寺 木造地蔵菩薩坐像(国重要文化財)

コメント

タイトルとURLをコピーしました