馬頭観音 役割/仏像/由来/ご利益/寺院など詳しく解説

コラム

馬頭観音って、どんな仏様?

馬頭観音とは

馬頭観音は大乗仏教で信仰される菩薩に属する尊格です。サンスクリット語ではハヤグリーヴァ(hayagrīva)と呼び、阿那羯唎婆、何那羯梨婆と音写されます。サンスクリット語での本来の意味「馬の首」です。

『摩訶止観(まかしかん)』では「畜生道の教主で阿弥陀如来の忿怒の姿だが、心は菩薩である」と説き、馬の頭の冠を被るため馬頭観音や馬頭大士と漢訳されました。また明王の忿怒相なので経典により馬頭明王、馬頭金剛明王とも漢訳され、馬頭尊や噉食金剛、迅速金剛などとも表記されます。

馬頭観音は観世音菩薩の変化身の一つで、六道輪廻を司る六観音の一尊として畜生道に落ちた衆生を救済する菩薩です。また名前に「馬」の字があるため、古代交通や運搬の手段だった馬の守護神として親しまれ、交通安全や動物の守り神として崇拝されます。

馬頭観音の仏像の見分け方

馬頭観音の仏像は他の菩薩像とは異なり、見た目は明王の姿で表現されることが多いのが尊格です。

『大日経疏』では身は早朝の太陽のような色で、白蓮華や瓔珞(ようらく)で着飾り、爪は長く、二つの牙が口から上向きで出て、髪は獅子の如く、吠え怒れる姿で仏像を作ると説いています。

日本の馬頭観音の仏像は『秘蔵記』に記された姿に近く、三面八臂の忿怒相の明王形で肌の色は赤く、大忿怒の形相で口から牙を出し、馬頭を頂いた冠を被った姿で表現されます。

一方、他の菩薩と同様に柔和相の馬頭観音も存在し、『理趣経』や『覚禅鈔』などでその姿が説かれています。

馬頭観音を象徴する三昧耶形は白馬頭、棍棒です。

馬頭観音の由来

馬頭観音の起原はサンスクリット語の名が示す通り、ヒンドゥー教の馬の神ハヤグリーヴァです。ハヤグリーヴァは馬頭人身四臂で智慧の神として崇拝され、ヒンドゥー教の三大神の一柱ヴィシヌ神の化身とされています。

ハヤグリーヴァは馬が持つ脚の速さや強さ、智慧を象徴した神で、その起源は紀元前2000年まで遡るとされています。ハヤグリーヴァはヒンドゥー教の神話では、太陽を引っ張り上げ、戦いに勝利する姿が描かれます。

紀元前5世紀頃に書かれたヒンドゥー教の物語『デーヴィー・マーハートミャ』では、悪魔のマドゥとカイタバかがインドラ(帝釈天)からヴェーダ(聖典)を取り戻すため、ヴィシヌがハヤグリーヴァに変身し彼らを倒したとししえいます。そのためハヤグリーヴァは手に経典を持っています。

馬頭観音の成立

馬頭観音について述べている『摩訶止観』は、隋の開皇14(594年)に中国の荊州で行われた天台僧・智顗(ちぎ)の講義をまとめたのであり、少なくとも6世紀中頃にはインドで仏教に取り込まれていたと考えられます。

この頃のインド仏教は後期大乗仏教から密教への過渡期です。人身馬頭という異形のハヤグリーヴァを悪魔とし、仏教が打ち負かし帰依させる形をとることで仏教の優位性を示そうとしたと考えられます。

このようなヒンドゥー教の神は明王や天部として仏教に採用されることが多いのですが、ハヤグリーヴァの本地のヴィシュヌ神はヒンドゥー教では釈迦の化身だったため、ヒンドゥー教徒を仏教に取り込むためにも完全な悪魔に仕立てられなかったと考えられます。

そのため馬頭観音の姿は明王でも一段高い菩薩の地位を与えたと推測できます。実際に両界曼荼羅の胎蔵界曼荼羅ではヒンドゥー教の異形の神々から成立した天部の尊格は大抵曼荼羅の大外側の外金剛部院に描かれますが、馬頭観音は蓮華部院を守護する明王として描かれています。

馬頭観音と日本

馬頭観音は『陀羅尼集経』や『大日経』などにも説かれていることから、密教伝来と共に日本に伝わったと考えられています。当初馬頭観音は中国に倣い明王の姿の仏像が作られ、寺院で秘仏扱いされていました。このような馬頭観音の仏像は11~12世紀にかけて多く作られています。

中世以降に仏教が一般庶民に広がると、馬頭観音という名前から人々の間で馬の守護神として信奉され始めます。馬は当時の物流を担う大事な動物です。そのため旅先の安全を祈る道祖神として、街道の道端に馬頭観音の石仏やその名を書いた石碑が盛んに作られまました。

道祖神の馬頭観音の姿は三面八臂の明王像はもちろん、梵字だけのもの、立像のもの、或いは馬に跨ったものなど多種多様。このように馬頭観音が人々の身近な存在となると、馬に限らず動物供養の神として信仰されるようになります。

鎌倉初期の仏教書で真言僧・覚禅が著した『覚禅抄』で初めて柔和相の馬頭観音が描かれていることからも、馬頭観音が人々から親しみを込めて信仰されていたことが伺えます。

また馬の名前から「駒形神社」、馬の陰茎が巨大なことから「金精神(男根神)」、薪や炭を山から運ぶ手段として「山の神」など、馬頭観音は日本の他の神々と関連付けられました。

現在でも、競馬場にはレース中の事故で死亡した馬の供養のために馬頭観音の石碑が設置されています。またペットを供養するご本尊としても用いられます。

馬頭観音のご利益

馬頭観音は明王と同一視されているため、一切の魔を払い煩悩を討ち伏せる力があります。また人の旅の安全を守護するとされています。さらに馬をはじめとした動物の病を治し、亡くなった動物たちの魂を癒すとされています。

馬頭観音の真言

オン 阿密哩都納婆嚩アミリトドハンバ ウン 發吨ハッタ 娑嚩訶ソワカ

曩莫ノウマク 三曼多没駄南サンマンダボザナン 阿密哩覩納皤嚩アミリトドハンバ ウン 發吨ハッタ 娑嚩訶ソワカ

馬頭観音が安置されている主な寺院

石川県 豊財院  馬頭観音立像【確認されている日本最古の馬頭観音】

福岡県 観音寺  馬頭観音立像

京都府 浄瑠璃寺 馬頭観音立像(国重要文化財)

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